禁断兄妹
第71章 君が方舟を降りるなら
私もたかみちゃんも
先輩のおうちの話を詳しく聞くのは初めてで
特にお母さんは興味津々。
「そうよね、お父様は私でも知ってるような有名な指揮者だし、それは避けられないわね」
「ええ。そしてたいてい、『あなたも音楽の道を進むんですか』と聞かれます。僕は幼い頃から『はい』と答え続けてきました。父の影響で指揮者になることが夢だったので、それが素直な答えだったんです」
指揮者になる為の勉強として
幼い頃からピアノを続けてきたというタカシ先輩
「でも小学校の高学年くらいから、自分の意志で音楽の道を進んでるはずなのに、引かれたレールの上を進んでるような感覚を覚えるようになって。両親が勧める音楽学校の中等部の受験も、疑問に感じ始めたんです。
それで今の中学校を選びました。吹奏楽では有名ですが、音楽学校ではない普通の中学校ですね」
単なる反抗心とも言いますけど、と
先輩は屈託のない笑顔を見せる。
「その反抗心のおかげで萌もたかみちゃんも素敵な先輩を持てたんだから、感謝よね」
お母さんの言葉に
私とたかみちゃんは顔を見合わせて頷いた。
「僕自身も、この選択は間違っていなかったと思っています。
あのまま音楽学校の中等部へ入学していたら、レールの上の自分という感覚にとらわれたままだったと思います。音楽のことも、嫌いになっていたかも知れません」
タカシ先輩は
私とたかみちゃんを見て
「今は音楽が大好きだよ。生きてきた中で、今が一番好きだなって思ってる。部活の仲間達のおかげだよ」
誠実な瞳が
にっこりと細くなる。
「部活動があるからこそ、個人的に受けているピアノレッスンにもすごく集中できるし、指揮者になりたいって夢も、ぶれなくなった」
───個人的に受けているピアノレッスン───
タカシ先輩の言葉に
突然胸の中で
何かが閃いた。
「だから来年は自分の意志で、音大の付属高校を受験しようと思ってる。宣言したからには受からなきゃな。頑張るよ」
───音大の付属高校───
「わー!すごい!」
たかみちゃんとお母さんの
パチパチという拍手の中
私の胸が
燃えるように熱くなって
揺さぶられて
「あの、わ、私もっ、」
「うん?」
「私も音大に行きたいんですっ、個人レッスンとかも、そういうの、知りたいんです‥‥!」