禁断兄妹
第72章 君が方舟を降りるなら②
今の私は
聞きたいって素直に思えた。
最初に聞いた時は熱を出したくらいだから
私も傷つくような話なのかも知れないけど
大好きなお母さんとお父さんの恋のお話
もう一度
ちゃんと受け止めたい。
「それとね‥‥萌の夢を聞いて、お母さん本当に嬉しかった。
フルート奏者ね、とっても素敵な夢だわ」
突然私の口から飛び出した
音大のこと、個人レッスンのこと
「自分でも不思議なんだけど、フルート奏者になりたいって、それが夢なんだって‥‥タカシ先輩の話を聞いてて急に溢れだしたの‥‥」
「今は思い出せないことがあっても、萌が体験したり考えたりしたことは、萌の中にちゃんとあるって証拠ね。
消えちゃったわけじゃないのよ」
本当にそう
お兄ちゃんが私にかけてくれたあの言葉は
私の中に既にあった。
「お兄ちゃんが話してくれた階段の話、素晴らしかったわね‥‥胸が熱くなったわ」
「うん‥‥」
今日のお兄ちゃんの
表情や言葉
瞳の色
思い出すだけで胸が焼ける
痛いくらい
心の奥底の扉が揺れる
怖いくらい
「萌をここに運んでくれたのはお兄ちゃんよ。
ばたーんって萌がテーブルの上に倒れちゃったんだけど、次の瞬間にはもうお兄ちゃんが萌をお姫様だっこで抱えて、部屋に運んでくれたの」
「なんとなく、覚えてる‥‥」
薄れていく意識の中で
萌って私を呼ぶ声
ごめんな触るぞって
力強く抱き寄せられたこと
微かなのに
鮮やかで
息苦しい
「みんな慌てていたけれど、お兄ちゃんは病院の先生にすぐに電話を入れて、萌の様子をきちんと伝えてたわ。
今はお仕事の関係でまた出掛けてるの。萌のことをちゃんと見てるように言われたわ」
出掛けてる、と聞いて
思わず息を吐いた。
残念なような
ほっとするような
自分でもよくわからない。