
禁断兄妹
第72章 君が方舟を降りるなら②
タカシ先輩との登下校にすっかり慣れてきた一月の終わり
先輩からこんな提案があった。
「個人レッスンのことだけど、もし良かったら、俺が受けてるのを見学してみないか?
こんな風にやってるんだって、実際に見てみるといいと思うんだ」
「えっ、いいんですか?わあ‥‥ぜひ行きたいです!」
「うん。俺はピアノだけど、きっといい刺激になると思うよ。あ、先生はドイツ人だから会話はドイツ語だけど」
「ドイツ語?!」
タカシ先輩はお父さんの仕事の関係で
小さい頃ドイツに住んでいたことがあるそう
「ドイツ語と英語は得意だけど、フランス語とイタリア語はまだ片言レベル」
指揮者になる為にも色んな語学を習得しておきたい、と
当たり前のように話すタカシ先輩
夢を叶える為にやるべきことは何か
ちゃんと考えて行動してる。
私も見習わなきゃ
「それと、フルートの個人レッスンのことだけどさ。
俺のピアノの先生とか、家族にも聞いて、良さそうな先生が何人かピックアップできたよ」
手渡された紙には
先生の名前や経歴、レッスンの場所、料金の目安とか
勿論みんな女性の先生
「わー‥‥!」
「お試しレッスンをしてる先生もいるし、いくつか受けてみてから自分に合う先生を決めてもいいと思う。初めは俺が付き添ってもいいよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
すごい
この紙の中に
夢への階段がある
ドキドキする
ワクワクする
「ははっ、一ノ瀬の目、キラキラだな」
その日は行きも帰りも
タカシ先輩と個人レッスンの話で盛り上がって
「帰ったらすぐ、この紙をお母さんに見せて相談してみます」
そんなことを話していたら
ちょうどマンションの前でお母さんと会った。
「あっ、お母さーん!ただいま!」
「あら萌!タカシ君も!おかえりなさい!」
「こんにちは、美弥子さん」
「うふふ、こんにちは!」
タカシ先輩がお母さんのことを名前で呼ぶことになったのは
三学期が始まる日の朝に
『萌さんのお母さんって呼び方は長すぎるしあまり好きじゃない』と
お母さんがお願いしたから
タカシ先輩も快く受け入れて
ちゃんと名前で呼んでくれるから
お母さんは嬉しそう。
