
禁断兄妹
第72章 君が方舟を降りるなら②
「お邪魔します」
「うん。いらっしゃい」
お兄ちゃんは最初と同じようにソファに座って
待ち構えていたように
微笑んだ。
「おくつろぎのところ、急にお邪魔してすみません」
「萌のフルートの個人レッスンについて調べてくれたんだって?忙しいだろうに、すまないね」
「いえ、少しでも萌さんの力になりたいと思ってるので」
「寒かったろう。どうぞ好きなところに座ってくれ。
萌、お茶を淹れてくれるかい?」
「う、うん。
先輩、座っててください」
対面式のキッチン
お兄ちゃんとタカシ先輩の様子を窺いながら
急いでお茶を用意する。
「英字新聞を読んでらっしゃるんですね」
「ああ、たまに読まないと読めなくなるから」
「さすが世界的に活躍されている方だ‥‥語学力があるんですね」
「留学してたこともあるし、英語くらいはね。君だって母国語以外も喋れるんだろう?」
───心配するな───
この前先輩が家に来た時
そう唇を動かしたお兄ちゃん
今も変わらないと思って
いいんだろうか
「ところで‥‥
毎日萌の登下校に付き合ってくれて、ありがとう。もう一ヶ月くらいたつね。
萌からも聞いているけど、体調に問題はなさそうだね」
「あ、はいっ。最初の頃の萌さんは、周りの状況に臆病で神経質になっているように感じましたが、今はリラックスして僕とお喋りしてくれています」
「そう。それは良かった。
まあ体調のこともそうだけど、俺は萌のことが小さい頃から何かと心配でね。
兄バカと笑われるかもしれないけど、萌を変な目で見てる奴や、不審な車を見かけたりするようなことはなかったかな」
「あー‥‥確かに萌さんは可愛いですから、すれ違う人の目線が萌さんを見てるなとわかる時はありますけど、不審と感じるような人や車まではありません」
「そうか。君はよく目配りしてくれてるだろうから、安心したよ。
‥‥今可愛いって言ったね」
お兄ちゃんはふふっと笑った。
「事実を言っただけです」
「ふふ。まあいいや、ありがとう。
どうだろう、萌の体調も落ち着いてるようだし、もう一人で登下校させてもいいんじゃないかな」
「えっ」
タカシ先輩の声と
私の心の声が
重なった。
