
禁断兄妹
第72章 君が方舟を降りるなら②
「そんなにびっくりするようなことを言ったかな。
例えば最初は帰りだけとか、三日に一度、二日に一度とか。様子を見ながら萌が一人で登下校する機会を増やしていって欲しいんだよ」
お兄ちゃんは軽やかな口調で
朝夕の送り迎えは君にとって少なからず負担だろうし
いつまでも厚意に甘えてはいられない
萌の自立心も育たない
そんな言葉を続ける。
お兄ちゃんは新学期の朝にタカシ先輩が迎えに来てくれた時
『面倒をかけるけど、しばらくの間よろしく頼む』と言っていた。
確かに『しばらくの間』は
一ヶ月くらいなのかもしれないし
お兄ちゃんの言ってることはわかるけど
でも
「僕は負担だと感じたことは一度もありません。
確かに萌さんの体調は落ち着いてきているとは思いますが、たとえ週に一度でも萌さんを一人にさせるのは心配です」
「心配なのは俺も同じだ。いや、君以上かな」
固い口調のタカシ先輩に
お兄ちゃんは穏やかに言葉を返す。
「萌を心配してくれる気持ちは嬉しい。
でも萌にはね、自分の体調や精神的なコンディションを自分で管理できるようになっていって欲しいと思ってる。
周囲の状況に不安要素がなくて、体調も落ち着いてきてるなら、少しずつでもチャレンジしていくべきだ。
‥‥‥萌も聞こえてるだろう?俺はそう思ってるんだよ」
急に呼び掛けられて
止まっていた手がびくんと震えた。
「柊さん、仰ることはよくわかります。
でも僕は‥‥やっぱり萌さんのことが心配です。それに僕は、萌さんと音楽や勉強のことを話せる毎日が楽しいんです。できればこれからもずっと萌さんと登下校がしたいです」
「ずっと?萌の為を思って少しずつでも手を離していこうとは思わない?」
「‥‥萌さんの意見を聞きたいです」
「今俺は君と話をしている。君の答えを聞きたい」
二人の会話が途切れて
しんとする中
カップから立ち上る湯気を見つめながら
私も
自分の答えを探していた。
「萌さんには、まだサポートが必要だと考えます」
「サポートするなとは言ってない。最終的には一人で登下校できるようにサポートしてやって欲しいと頼んでるんだ。
音楽や勉強の話をするなら、以前のように部活で会った時にコミュニケーションを取るようにすればいい‥‥節度をもってね」
