
禁断兄妹
第72章 君が方舟を降りるなら②
再び途切れた会話
三つのお茶を載せたトレイを
深呼吸しながら手にとって
私はキッチンから出た。
「柊さん。この前も言いましたが、少しお話がしたいです」
「話、ね‥‥ああ萌、ありがとう。そこに置いてくれるかい。どうぞ、タカシ君」
ソファの前にあるセンターテーブルに
手早くお茶を並べて
「先輩‥‥どうぞ」
「ありがとう」
いつもの涼やかな微笑みが
少しだけ固い。
せっかく来てくれたのに
せっかく
個人レッスンのことを色々調べてくれたのに
お兄ちゃんの言い方はなんだか意地悪で
先輩が責められてるみたいで
悲しい
「お兄ちゃん‥‥」
「うん?」
「あのね、お兄ちゃんの言ってること、すごくよくわかった。その通りだなって、思った。だから一人で学校に行ったり帰ってきたり、少しずつチャレンジしてみようと思ってる」
「そうか。わかってくれたなら嬉しいよ」
「でもね‥‥ごめんなさい、私も先輩との登下校は続けたいって思ってるの」
勇気を出して
お兄ちゃんを見た。
細められている綺麗な瞳が
私を見上げていて
唇に残ったままの
微笑みの余韻
「久しぶりに目が合ったなあ‥‥」
ふわっと
ほどけるようにお兄ちゃんが笑った。
すごく嬉しそうで
その瞬間
頭の中が真っ白になった。
「萌はどうしてそう思うの?」
お兄ちゃんは私から目を逸らさずに
甘く微笑む。
きちんと理由を言おうとしてたのに
真っ白
「あの‥‥」
「うん」
「あの、先輩に‥‥あんまり意地悪なこと言わないで‥‥」
お兄ちゃんの瞳が瞬いた。
変なこと言っちゃった
頬が熱くなって
俯いた。
「意地悪、か‥‥」
ふふっ、と
耳をくすぐる苦笑い。
面白がっているような
切ない
ような
