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禁断兄妹

第72章 君が方舟を降りるなら②



その時のことは
私も覚えてる

でも
『萌に触らないでくれる?』

知らない


「駆け寄っていった萌さんを素っ気なくあしらって、あなたは僕の方へ歩いてきました。
 僕は挨拶をしましたが答えてくださらず、サングラスをずらして僕を睨んで‥‥すれ違いざまに、僕だけに聞こえるように、低く囁いたんです」


私には
お兄ちゃんの背中しか見えていなかった
あのシーン

タカシ先輩は何も言っていなかったけど
そんなことが


「その直前、確かに僕は、萌さんに触れていました。でも僕達は交際していたので普通の行為だと思いますし、僕は決して軽い気持ちでそうした訳じゃありません。でもそれを目にしたあなたは、強い不快感を感じた‥‥

 あの時僕は、怖かったです。怒りや敵意以上のものを感じました」


「会釈はしたつもりだし睨んだ気もないけど‥‥悪かったね」


首を傾け
こめかみに長い指を当て
黙って聞いていたお兄ちゃんが口を開いた。


「俺は萌と年が離れてることもあって、小さい頃から目に入れても痛くないほど可愛がってきたんだ。一人娘の父親のようにね。普通に考えて彼氏の存在は面白くないだろうと、察してくれないか」


「あのオーラは、面白くないというレベルを遥かに越えていました」


「結局何が言いたいのかな」


「柊さん、あなたは僕達の交際に反対して、すぐに僕と別れるよう萌さんに強く迫ったんじゃないですか?

 だから萌さんは休み明け、僕に別れを切り出した。何かに怯えてるような様子で、何も聞かないで欲しいと言われました。付き合い始めたばかりの僕達には、何の問題もなかったのに‥‥っ」


タカシ先輩の言葉尻に
熱が混じって

私の身体も
お正月にこの話を聞いた時のように
息苦しさに包まれる。


「反対なんてしてないよ」


「本当ですか?
 今もあなたは僕達の登下校にもっともらしい理由をつけて反対し、少しでも引き離そうとしていませんか?『節度をもって』という言葉も、同じ発想から出た言葉ではないですか?」


「俺の言葉をどう捉えるかは君の自由だけど、裏を読まず言葉通りに受け取ってもらいたい。
 ただ、萌が感じたように意地悪く聞こえたなら謝るよ。すまなかったね」


まるで
燃え上がる炎と
吹き付ける吹雪

息苦しさは増していく

だけど
引き込まれる

逃げ出したくは
ない

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