禁断兄妹
第72章 君が方舟を降りるなら②
「僕は、僕はあなたに謝ってもらいたい訳じゃありません。ただ、認めて欲しいんです、萌さんの一番近くにいることを、許して欲しいんです‥‥っ」
もどかしげなタカシ先輩の声
「随分熱心だね」
「僕は萌さんのご家族とも友好的な関係を築きたいんです。特に柊さん、あなたと。
どうか認めてくれませんか」
お兄ちゃんはふふっと小さく笑って
その笑いをおさめると
「はっきり言おう。認めも許しもしないよ」
「‥‥っ」
息を呑んだのはタカシ先輩だけじゃなくて
私も
「俺はね、君と萌の距離を節度あるものに保ちたいと思ってる。
その理由はね、さっきも言ったけど萌の自立心を育てたいし、自分の心身は自分で管理できるようになって欲しいからだ。心からそう思っている。
別にもっともらしい屁理屈をひねり出したつもりはないよ。それは信じて欲しいね」
「は、はい‥‥」
「でも他にも理由はある。言おうか」
野性的なお兄ちゃんの瞳は
射るようにタカシ先輩に向けられて
私まで
凍りつく。
「萌は人の気持ちがとてもよくわかる子だ。優しい子なんだ。
今の萌は恋愛なんてできる精神状態じゃないかもしれない。でも君と必要以上に多くの時間を過ごすようになると、献身的に尽くしてくれる君の秘めた想いを汲んであげたくなるだろう。そしてその時を待ち構えていた君は復縁を持ちかける‥‥
このままいけば、君達は遅かれ早かれ元サヤなんだよ。火を見るより明らかだ。
俺は、それを避けたいと思っている」
「避けたい‥‥?どうしてですか‥‥」
喘ぐように
タカシ先輩が震える言葉を吐き出した。
「合意の上ならもう一度付き合うことになったっていいじゃないですか、何が悪いんですか?
どうしてですか、そんなに僕のことが気に入らないんですか?!」
「気に入るとか入らないとかの問題じゃない」
お兄ちゃんの声は
どこまでも冷静で
「今の萌は記憶を失っている状態だけど、いつか必ず、記憶を取り戻す。
全てを思い出す時が来る‥‥必ずね」
お兄ちゃんの視線が
私に注がれた。
「その時にもし誰かと付き合っていたり、深い仲になっていたとしたら、萌は絶対に後悔する‥‥
俺は、萌に後悔をさせたくない」