禁断兄妹
第73章 君が方舟を降りるなら③
───
「話すのは今日が最初で最後だ。用件を聞こうか」
第一声がこれ
二十代後半位
声の感じから
萌を襲った奴とは違う人物
「由奈さんと一ノ瀬柊の友人の高木和虎と申します。霧島組の方ですか?」
「ああ、そうだ」
「この番号で先月由奈さんから電話があったんですが、これはあなたの携帯ですか?」
「そうだ。あの時は会長のご指示で、嬢にお貸ししただけだ」
有能だけどドライなビジネスマンを連想させる声
『会長のご指示で嬢にお貸しした』と言ったのは
自分は幹部クラスだと暗に誇示する為か
でも低姿勢にはなりたくない
「霧島組の組員が、一ノ瀬柊の妹を襲いましたね?」
「詳しくは知らないが、お考えがあってのことだろう」
その言い方から
萌を襲った奴はこの人物の上位者
「由奈の件の報復ですか?
一ノ瀬柊本人ではなく彼の妹を襲うなんて、霧島組は卑怯ですね」
「目には目を‥‥同じ目にあわせたまでの話だな」
「同じ目とは、どういう意味でしょう」
「用件を早く言えよ」
相手はヤクザ
電話を切られてしまえば終わり
慎重に潮目を読む
「聞きたいことは二つあります。
一ノ瀬柊には今後手出しをしないと聞いていますが、彼の妹にも二度と手出ししませんか?
そして由奈と連絡が取りたいんです。音信不通なので友人としてとても心配しています」
「霧島組は、一ノ瀬柊にもその家族にも二度と関わらない。それは確かだ」
「会長と呼ばれる方が指示を出したからですか?」
「そういうことだな」
本当かと念を押そうとしてやめた
ドライながらもどこか芯を感じられるこの人物の言うことは
信用できるような気がした
「それなら良かった。安心しました。で、由奈は‥‥?」
「嬢は、もうここにはいない」
「今どこにいるんですか?」
「年始めに神楽組へ嫁いだ」
「ええっ?!」
思いもしなかった答え
「嫁いだ‥‥って、結婚したってことですか?!」
「他に何がある」
「本当に?!どうしてそんな急に?!」
「もともとそういう話はあった。別に急な話じゃない」