禁断兄妹
第73章 君が方舟を降りるなら③
会話は以上、と言葉を切った和虎
俺は大きく息を吐いた。
様々な感情が息苦しいほど胸に渦巻いていたが
とにかく
「‥‥もう萌は狙われないとわかったのはありがたい。
ありがとうな‥‥和虎」
もう萌が狙われることはない
それは本当に大きな安堵で
俺は天を仰いでもう一度息を吐いた。
「霧島組的に気が済んだんだろうね。もうこっちに興味はない感じだった」
───由奈の件の報復ですか?───
───目には目を‥‥同じ目にあわせたまでの話だな───
「‥‥萌が霧島組に襲われたのは、やっぱり、俺への報復の為だったんだな‥‥」
そうに違いないと結論づけてはいたけど
改めて事実として突きつけられると
きつい
天を仰いだ顔は項垂れて
ふざけるな
そっちの気は済んだかもしれないが
俺は
今だ未消化のどす黒い感情が
腹の底で蠢く。
「逆恨みによる犯行以外の何物でもないよ。柊兄は悪くない」
「‥‥」
俺は何も悪くない
そう思えたらどんなに楽か
「電話に出た奴が由奈のこと、嬢、嬢って言ってたけど、霧島組は会長の娘の由奈をそれこそお姫様みたいに大事に育ててきたんだと思う。
その由奈のモデル人生が断たれて、傷物になっちゃったみたいで、霧島組的にすごくショックだったんだろうね。
特にショックを受けたのは、萌を襲ったあの男‥‥」
冷ややかな三白眼
俺の手を折らんとばかりに強く握った
あの男
「実はさ、由奈とあの男に関することで、思い出したことがあるんだ。
ママの店に由奈が来た時に、要がいたことがあって。柊兄が要に会うよりも前かな。要のことは‥‥覚えてるよね」
「俺に死相が出てると言ったメガネだろ‥‥」
萌が身を挺して守ってくれなければ死んでいたかもしれないし
生き永らえてはいても
萌との愛を失っている今の俺は死んだも同然
あいつの言葉は当たっていたと言っても
過言ではない。
「その時由奈に要のことを見えちゃう人だって紹介したんだ。そしたら『私には何が見えますか?』って由奈が要に聞いてさ。
要はじーっと由奈を見て‥‥『ボディガードのような男が見える。文字通り彼に守られて君がよく見えない』って言ったんだ。
『全身全霊で、命がけで君を守ってるよ』って‥‥」