禁断兄妹
第73章 君が方舟を降りるなら③
「柊兄も色々思うところはあるだろうけどさ‥‥」
黙ったままの俺に
和虎は静かに言葉を続けた。
「霧島組のことは、もう忘れよう。二度と関わらないでおこう。
柊兄も萌も、もう狙われないってことがわかったんだから、それだけでも良かったよ。本当にほっとした」
「本当に‥‥思うことは色々ある。あり過ぎる。でも、その全てを飲み込んで、生きていこうと思ってる」
「うん」
俺達はしばらく無言で
そして和虎は
まっ、とにかくさ、と明るい声を出した。
「これでもう、萌の学校の行き帰りとかを心配しなくていいじゃない。
そういえばボディガードを雇いたいとか言ってたけど、結局今はどうしてるの?」
「タカシが毎日一緒に登下校してる」
「えー!!なんでタカシが?!」
和虎はタカシの存在を知ってはいるが
一月四日に家にやって来た話は
まだしていなかった。
「しかもあいつ、指揮者のタカシイチロウの息子だったんだ」
「えっ、あのタカシイチロウ?!タカシって名字だったの?!なになに、どういうこと?!」
「正月早々タカシが家に来てさ‥‥色々あったんだ」
萌がタカシを家に招いたいきさつや
その日にどんなことがあったのか
この日がきっかけになって
三学期から萌とタカシが一緒に登下校していることを
俺は和虎に話して聞かせた。
「タカシには感謝してるけど、不安が払拭されたなら萌を自立させたい。
一人で登下校してみるよう、すぐにでも萌に伝えるよ。体調を見ながら少しずつ練習させる」
もう一ヶ月近く、毎日タカシと一緒に登下校している萌
部活でも一緒で
夜や休日も電話やメールをしあっていると美弥子から聞き
俺はジレンマを感じていた。
「タカシに感謝してる?二人を見守る眼光が鋭すぎて、あなた本当に感謝してますかって感じでしょ」
「感謝してるさ」
「タカシお前勘違いすんなよ、いい気になんなよ、みたいなオーラが出ちゃっててー、だからあなた本当に感謝してます?!みたいな」
「見てたような言い方するなよ」
思わず笑いが漏れて
二人で少し笑ってから
和虎は
「由奈のことだけどさ‥‥すごく気掛かりだけど、こっちからは下手に関われないから、幸せを祈るしかないね。
いつかあの娘から、元気だよって電話の一本でももらえたらいいなって思う‥‥」