禁断兄妹
第74章 君が方舟を降りるなら④
「あ、柊さんっ」
リビングに入った俺は
ソファから立ち上がったタカシの姿に唖然とした。
何故お前がいる
お邪魔しています、と一礼するタカシの隣り
ソファに座って気まずそうな萌
胸の中に
ぽたりと落ちた
苛立ちの一滴
「今日ニューヨークへ発たれると聞いたので、僕も柊さんのお見送りをしたくて」
「‥‥萌に聞いたの」
はい、と頷くタカシ
得意気に見えるのは
気のせいか
「二度と帰って来ない訳じゃない‥‥大げさな」
当初は美弥子と萌が空港まで見送りに来ることになっていたが
美弥子が風邪気味らしく
大事をとってここで見送るという話になっていた。
「でも、今日から三ヶ月くらいは向こうなんですよね?しばらくお会いできないでしょうし、お見送りさせてください」
また一滴
「君はこの前俺が言った言葉を覚えてる?」
「はい。萌さんとの登下校は減らしていますし、コミュニケーションは主に部活で節度あるものだと思います。
ただ今日のことは、萌さんから聞いてぜひ僕もお見送りがしたいと頼んだんです」
「用意していたような模範解答だな」
また一滴
墨汁
いや
毒のよう
「今、お茶を淹れるね」
テーブルの上を片付けている萌
髪を耳にかけていて
ふと俺は目を凝らした。
忌中だったこともあり萌はしばらくアクセサリーを身につけていなかったが
その耳に
見慣れないイヤリングがついている。
「萌、どうしたの、それ」
顔を上げた萌に
俺は自分の耳たぶを指でつまんだ。
「あ‥‥タカシ先輩からさっき頂いて、それで‥‥」
俯いた萌の手の中には
小さな箱や包み紙
「最近萌さんの元気がなかったので、笑顔になってくれたらいいなと思って。遅ればせながらのクリスマスプレゼントっていうか」
ぼたっ
ぼたぼたぼた
「萌さんは耳の形が綺麗だから、イヤリングをつけると引き立ち───」
「萌にはあまり似合わないデザインかな」
考えるより先に
口が動いた。