禁断兄妹
第74章 君が方舟を降りるなら④
「そ、そうですね、すみません僕のセンスが───」
「萌、母さんは?」
俺はコートを着たまま二人に向かって歩を進めた。
萌が怯えたように体を固くする。
アクセサリーをプレゼントされれば
その場でつける流れになるのはわかる
わかるよ萌
わかるけど
どうして今日
俺が旅立つという今日
タカシからのプレゼントを
その耳につける
「美弥子さんは今出掛けてらっしゃいます」
固まったままの萌の代わりに
タカシが答えた。
出掛けてる
だと
「俺が帰って来るまで二人きりでいたってこと?」
俺は直立不動のタカシに向かい合った。
「あっ、はい、でも───」
「タカシ君。君さ、ちょっとマナー違反だね。家族の不在時に家に上がり込むのはやめてもらえないか」
「えっ‥‥」
「勝手に萌へプレゼントも渡すのも遠慮して欲しいね。我が家は中学生らしくない贅沢品を、萌には与えていない」
「お兄ちゃん‥‥っ」
振り絞るような声と共に
萌が立ち上がった。
「やめてよ‥‥どうしてそんな冷たいこと言うの‥‥?!」
冷たい
「タカシ先輩が来た時はお母さんもいたし、今はちょっと買い物に出掛けてるだけだよ。このプレゼントだってさっきお母さんは見てるし、私が元気になるようにって、タカシ先輩がせっかく‥‥っ」
子うさぎのように体を震わせている萌
その耳もとで
虹色の光が揺れている。
冷たいのはどっちなの
萌
「‥‥三人は仲がいいんだな」
思わず笑った。
萌がびくんと体を揺らす。
「ごめん、俺疲れてるんだ。
‥‥もう行くよ」