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禁断兄妹

第74章 君が方舟を降りるなら④



時が止まったような
濃密な一瞬

身動きもせず俺を見ていた萌が
はっとしたように振り返って
俺は両手を下した。

タカシ

現れたタカシは萌の顔を覗き込み
何か萌と言葉を交わしながら
俺のほうを見る。

その後ろから美弥子まで現れて
おろおろした様子で萌に声をかけている。

二人に慰められているであろう萌
俺を見つめながらも
動く様子はない。

俺は息を吐いた。


「‥‥行こうぜ」


バルコニーから視線を外し
車の助手席に乗り込んだ。


音楽を愛する心優しい少女
それを支える高名な音楽一家の誠実な少年
二人を見守る暖かな母親

方舟に乗るにふさわしい

そして
俺は一人


「和虎、行くぞ」


まだ外に立っている和虎に
窓を開けて声をかけた。


「柊くーん!!」


美弥子の大声が聞こえた。


「柊兄、美弥子さんが呼んでる」


「柊くーん!!和虎さーん!!待って待ってー!!」


慌てたりすると
俺を君付けで呼ぶ癖が出る美弥子


「やっぱり、私達も空港に行くー!!」

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