禁断兄妹
第77章 手紙を奪還せよ
俺は今日起こったことの全てをヒロに話した。
まず店にやってきた萌との会話の内容
萌には悪いが話さなくては始まらない。
萌の様子とその会話から『時が来た』ように感じ
自分も何かできないかと
半ば衝動的に要に連絡したこと。
ヒロはそもそも要のことを知らない。
要が『見える』という特殊な能力を持ち
俺と柊兄に関わる人物であることも話す必要があった。
俺の話は長く続いたがヒロは口を挟むことなく
太い腕を組み身動きもせず
じっと聞いていた。
「───俺の話はここまでだよ。黙って聞いてくれてありがとう。質問はある?」
「ない。よくわかった」
「良かった。じゃあ、今度はヒロの話を聞かせてくれ」
「七年前のあの時、萌さんが運び込まれた病院で、俺が知る事件の全貌を一ノ瀬に話したよな。覚えてるか」
「覚えてる」
「萌さんを背負い、車から出て、後は一目散にマンションへ帰るだけだった時のことも、話したはずだ。
それまでぐったりとしていた萌さんが、降ろして欲しいというように急に俺の肩を叩き暴れだして、とにかく降りたいのだろうと地面に降ろすと、萌さんは何かを探すように、必死の形相で辺りを見回した。
そして喉が潰れ声が出ない萌さんは、俺に何か伝えようと懸命に口を動かした。
『メカイ』?『テカニ』?‥‥俺は必死に萌さんの唇を読もうとしたが、何を伝えたいのか、どうしてもわからなかった‥‥」
「あっ‥‥」
「やっと思い出したか」
───『メカイ、って何のことかわかりますか?』
『何それ。日本語?』
『ではテカニは?‥‥または類する言葉を知っていますか』
『意味不明なんだけど』───
───『エアイ』とか『テカニ』とか、それに近い三文字の言葉のように感じましたが‥‥
一ノ瀬さん、それに似た言葉に何か心当たりはありませんか?
‥‥そうですか。そうですよね。
何か思い出したら、私にも教えてください。和虎さんも。
ずっと気になっていて‥‥どうかお願いします───
そうだ
灰谷は確かにそう言っていた。
あれからしばらくは覚えていたと思うが
七年の間に
俺はすっかり忘れていた。