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禁断兄妹

第81章 つがいの鳥③



「この手紙は、一ノ瀬柊の父親である一ノ瀬巽が書いたものです。自分の死期が近いことを悟った彼が、それまで胸に秘め続けていた疑問をぶつけるという形で、謙太郎という男に宛てて書いたものです。
 俺は当時一ノ瀬柊の身辺を洗っていましたから、謙太郎がどういう関係者かすぐに気がつきました。
 謙太郎、夏巳、そして巽。この三人の間には、深い闇があったようです」


深い闇

それを内包した手紙の横で
炎が揺れる。


「一ノ瀬巽は死にましたから、この手紙は結果的に遺書と言っていいでしょう。手つかずだった闇を白日のもとに晒すような驚愕の内容ですが、俺以外の人間はまだ誰も読んだことがない。
 これを読むかどうかで、一ノ瀬柊の人生は大きく変わるでしょうね。
 つまり、燃やしてしまうのは非常に惜しい代物です」


無感情に言葉を連ねた修斗は
私を睥睨して


「嬢。今日のところは休戦といきませんか。とりあえず霧島に残ってはどうです‥‥?」


修斗は狡猾だ
手紙の内容を意味深に話し
燃やしてしまうことへの罪悪感を煽る


「もうやめて。返してあげて。お願い」


「あなたが霧島に残ると言うなら」


「それは言えないわ‥‥」


修斗を見返し
首を振った。


「たとえ何日かここにいても、私の気持ちは変わらない」


「あなたの最後の罪滅ぼしのチャンスが、永遠に失われますよ」


「‥‥」


「俺の言ったことをちゃんと聞いていましたか?本当に燃やしていいんですか?」


修斗は本当に燃やすだろう
そういう男だ

私は柊君のお父さんが亡くなったことも知らなかったけれど
修斗が言うように
すごく大事なことが書いてあって
柊君の人生が
より良いものになるのかも知れない

でも
私は


「私は神楽に帰るわ‥‥」


ごめんね柊君

モエ
柊君のお父さん
和虎君
この手紙に関わるみんなへ

一生謝り続けるわ


「そうですか」


修斗は当然のような表情で
手紙の下にライターの炎をかざした。

すぐに燃え移った炎
黒い煙があがった。


「‥‥っ!!」

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