禁断兄妹
第81章 つがいの鳥③
ああ
どうしよう
まだ間に合う
だけど
「イエスと言えばすぐにでも消しましょう。まだ多少は読めますよ‥‥?」
もう半分以上燃えてしまった
お父さんの遺書なのに
ごめんなさい柊君
ごめんなさい
「言わないわ‥‥」
手紙を持つ修斗の指近くまで炎が迫り
修斗は手紙を手から離した。
床の上の黒い煤を
磨き上げられた靴がじわりと踏みつける。
終わった
「‥‥もう帰るね。神楽の車もここの敷地内に待たせてるし」
私はソファに置いていたバッグを手に取った。
これ以上ここにいても
仕方がない
「会長が下で待っています。一緒に食事を」
「最初から食事をする気はなかったわ。おじいちゃんには私から伝える。
忙しい身なのに時間を取ってくれてありがとう修斗。元気でね」
もう二度と会うこともないだろう
立ち尽くす修斗に背を向けて
ドアへ向かった。
「‥‥あなただけは、どうしても思い通りにならない‥‥」
修斗の声が聞こえて
振り返った。
私を見つめる瞳には
もう
さっきまでの冷酷さも
尊大さもなく
ただ
苦しげだった。
「あなた以外のことは、何でも、誰でも‥‥思い通りなのに‥‥」
修斗はゆらりと私に背を向けると
もう一度金庫の扉を開け
取り出したものを
私に差し出した。
「これが本物の手紙です」
「えっ」
「どうぞお持ち帰りください」
「さっきの手紙は、偽物だったの?」
「ダミーです」
「そうだったのね‥‥」
全身の力が抜けて
その場にしゃがみこんだ。
「すっかり騙されてしまったわ‥‥」
なんて恐ろしい男だろう
だけど
修斗は修斗なりに
私を引き留めようと必死だったんだろう
責める気はない
大切な手紙は
手に入ったのだから
「ありがとうね、修斗。ありがとう」
「受け取ってください」
白い封筒を
差し出されたけれど
「私は友人のところへは行けない。そんな自由がないことくらい、わかってるでしょ」
「そんな自由さえもない家に、何故戻る‥‥」
私は立ち上がると
ドアを開けて
「ツトムさーん‥‥いるー‥‥?」