
禁断兄妹
第83章 つがいの鳥⑤
ツトムさんの口が
入れませんよね、と今にも言いそうだったから
私はとにかく修斗に電話することにした。
修斗には心から感謝している
感謝しきれないくらいだけれど
修斗と接すると
引き留める修斗を振り切って神楽に帰ったのに
臨一朗から別れを告げられたあの日の
引き裂かれるような悲しみが蘇る気がして
避けてしまっていた
でも
あれからもう一か月が過ぎた
生々しく鮮明だった悲しみも苦しみも
今はその色を薄めている
ツトムさんの言う通り
修斗へ感謝の気持ちを
伝えよう
私は名刺を見ながら修斗へダイヤルした。
隣に立つツトムさんは
興味津々で見守っている。
「はい」
「あ、修斗、私よ。今電話大丈夫かしら」
「はい」
修斗の声には
嫌悪も喜びもない
相変わらずの冷ややかな声に
逆にほっとしている自分がいた。
「修斗、いつも迷惑をかけてごめんなさい。そして本当にありがとう。フランスへ出発する前に、お詫びとお礼を言いたいから、もし都合のいい日があったら、ここへ夕飯を食べに来て。私が作るから。お土産はワインがいいわ。フランス産にしてね。それじゃ」
電話を切った私に
ツトムさんがひきつった顔で
「留守電だったんですか?だとしても、一方的過ぎませんか」
「ううん、普通に出たわよ」
「‥‥」
「これで修斗はわかってくれるわ。都合がつくなら、これから行くとか、いつか電話が来ると思う」
「お詫びとお礼を言いたいのにお土産を要求するって、どういう神経なんですか‥‥いや、もう後の祭りだ。俺がけしかけたとは絶対に言わんでください」
「ワインはちょっとしたジョークよ。大丈夫よ」
修斗はとても忙しい
来れなくてもそれはそれでいい
また機会があると思う
でももし
来てくれたなら
あの頃のように
二人向かい合ってご飯を食べながら
ごめんなさいとありがとうを
伝えたい
そして私の新しい夢
フランスでお店を持つ夢を
聞いてもらいたい
