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禁断兄妹

第83章 つがいの鳥⑤



修斗は助手席のドアを開き
どうぞ、と首を傾ける。
私に気晴らしをさせようという思いやりなのかも知れないけれど


「私の恰好見なさいよ。手渡すだけだと思っていたからもう寝る態勢よ」


羽織ったコートの裾からはパジャマが見えていて
履いているのは玄関にあったおじいちゃんのサンダル
お風呂に入ったから化粧も落としている。


「ドライブだからいいでしょう。どうぞ」


修斗はそのまま高級レストランに入ってもいいような服装なのに
ちょっとくやしい


「わかったわ。じゃあ、お邪魔します」


おにぎりとかを入れたレジ袋を持ったまま
車に乗った。
修斗のエスコートで車に乗るのは久しぶり
しかも助手席に乗るのは初めてかも

修斗も乗り込んで
静かに車が動き出す。


「どこに行くの?」


「特に考えていません」


「せっかくだから夜景の綺麗なところがいいわ。車を降りずに見れるところ、この近くで知らない?」


「早速注文を出すあたり、あなたらしさが戻って来た。心配することもなかった」


「心配してたの」


「ええ」


穏やかな修斗の横顔


「あんなに啖呵を切って神楽に帰ったのに、霧島に戻されちゃったものね。確かにひどく傷ついたけれど、お陰様で元気になって来てるわ」


「そうですか」


ギリギリの駆け引きをしてまで
私に離婚を強く迫った修斗
結局臨一朗から言い出される結果になって

離婚の理由とか修斗がどこまで臨一朗から聞いているのか
わからないけれど
私を哀れに思って
いつになく優しい態度なのかも知れない


「ねえ修斗。いつも色々迷惑かけてごめんね。離婚のことも、フランス行きのことも、ごめんなさい」


「悪いと思ってないでしょう」


「思ってるわよ。いつもありがとう。そしてこれからもよろしくね」


修斗は前を見たまま
ふふっと笑った。



事務所で会ったのは
一か月半ほど前

あの時の私達は
喧嘩ではないにしろ
互いの気持ちをぶつけ合って
言い合いに近い緊張感があった。

でも
今の私はこの恰好のせいか
肩の力が抜けていて
素の状態

修斗と接すると
悲しみが蘇るかも知れないという考えも
杞憂だった。

修斗と過ごす今は
臨一朗への思いとは
全く別のものだ

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