禁断兄妹
第83章 つがいの鳥⑤
修斗が車を停めたのは
高台にある公園
目の前には
街の夜景が広がっている。
「近場だとここくらいしかない」
「十分だわ。綺麗」
「食ってもいいですか。腹減ってるんで」
「あ、今食べるのね。良かった、一応割り箸を入れておいたわ」
私が袋を手渡すと
修斗はラップに包まれたおにぎりを取り出し
黙々と食べ始めた。
夜景を眺めながら大きく口を開けて
どんどん食べる
その豪快な食べっぷりに
思わずじっと見入ってしまう。
「おいしい?鮭しょっぱくない?」
「うまいです」
「良かった。
きんぴらごぼうもあるからね。ボトルにはお味噌汁が入ってるんだけど、ここで飲むのは難しいだろうから、おうちで器に入れて飲んで。ボトルは三か月後に私が帰って来た時に返してね」
「嬢」
「うん?」
「俺はいつどうなるかわからない」
「‥‥」
「別におどかすつもりじゃないが、だからビジネス以外ではあまり先の約束をしたくない」
「そう‥‥」
組長ともなれば
抗争で命を狙われることもある
私の義理の父親のように
刑務所に入ることもあるかも知れない
そういうことを
言いたいんだろう
「修斗にはインチキソムリエをしてもらわなきゃならないから、元気にしてて欲しいんだけど‥‥」
「ははっ‥‥インチキはやめてもらえますか。ワインにはうるさいほうです」
こんな何気ない軽口のやり取りも
振り返れば
宝石のような瞬間になるのかも知れない
臨一朗との別れで改めて思い知ったけれど
当たり前のように続いていくと信じていたものも
突然終わりを迎えることがある
その時は取るにならなかったことや
うとましかったことも
思い返せば美しくて
尊い
「すごく美味しそうに食べてくれるのね。確かおにぎり五個くらいあったでしょう?味見を兼ねて私にも一個頂戴」
手を伸ばしたけれど
修斗は首を振った。
「嫌です」
「えー?」
「俺は次にいつ食えるかわからない。嬢はいつでも自分で作れるでしょう」
「まあ、そうね」
それくらい喜んでくれてるということかな
まあいいか