テキストサイズ

禁断兄妹

第86章 時を越え運ばれし手紙、それは運命の書



 堕胎や心中といった事態は避けられ、夏巳は妊娠という事実を受け止め始めたが、精神的な不安定さは出産の時まで続いた。
 定期健診の度に不安に心身を消耗させ、順調に育っている、とわかれば涙を流して喜んでいた。
 そしてやっと夏巳は男の子を産んだ。柊だ。
 心身が衰弱していた夏巳が難産の末に産んだ子供だ。俺達の心配を吹き飛ばすような、元気な泣き声の健康な男の子だった。俺も夏巳も心から喜び合い、感動に涙した。あの時のことを、俺は一生忘れないだろう。

 夏巳は出産によって母性が目覚めた為もあるんだろう、精神的に落ち着いていった。
 昔のような明るく天真爛漫な性格を取り戻した訳ではなく、もの静かで儚げで、いつも遠い目をしているような女になった。
 身体も病弱になったままだったが、清らかさや優しさは変わらなかったし、柊に対しても俺に対しても、深い愛情を注いでくれた。
 一度は死さえ覚悟した俺にとっては、夏巳が生きていてくれるだけで十分だったし、幸せだったから、柊の父親が俺ではないのかも知れないという可能性も、忘れつつあった。
 柊は夏巳によく似ていたが、俺にも似ているように思えたし、血液型にも不自然な点はなかった。何か検査をした訳ではない。真実は必要なかった。
 お腹の子は俺の子だ、俺はそう信じている、だからお前も信じろ、愛しているなら信じろ、極限状態の中で俺の言ったあの言葉が、俺にとっても、夏巳にとっても、真実だった。

 柊が三か月になる頃だったろうか。俺は久しぶりに君の現況を知ることになる。
 たまたま目にした男性ファッション誌に、君が載っていたんだ。
 度肝を抜かれた。最後に会った時の思い出の中の君より、何倍も輝いて、恐ろしいほど美しく凄みのある男になっていた。
 君はいつの間にか、モデルになっていたんだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ