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禁断兄妹

第86章 時を越え運ばれし手紙、それは運命の書



 告別式を終え、失意のどん底にいる俺に、夏巳の母親が思いもよらぬことを告げた。
 夏巳から、謙太郎宛てに書いた手紙を預かっているから、渡しに行こうと思っている、と言うのだ。
 聞けば亡くなるほんの数日前に書かれたもので、見舞いに訪れた時に託されたのだという。大事そうにバッグから取り出し俺に見せた封筒には、謙太郎へ 夏巳 と、確かに夏巳の文字で書かれていた。

 その時の俺の気持ちがわかるか。
 これ以上悲しめないというほど悲しいのに、何故俺ではなく、謙、この期に及んで君あての手紙なのか。
 やっぱりそうなのか、あの日夏巳のもとを訪れたのも謙、心から愛していたのも謙だったのか。いつもどこか遠い目をしていた、やはりそれは遠く離れている謙への眼差しだったのか。

 俺はすぐさま言った。俺から渡すよと。俺は謙の所属するモデル事務所を知っているし、東京への出張も多いから地理にも明るい。彼の事務所へ出向くのも簡単だ。
 全部適当なでまかせだ。それでも渋っている母親から、俺は半ば強引にその手紙を奪い取った。

 謙には絶対に渡さない、渡すものかと、鬼のような心で思った。どうせ謙は家族と絶縁状態で手紙を受け取ったかどうかなんて母親には確認のしようがない。
 さりとて中を読む勇気など、俺にはなかった。
 最後に会いたいだの愛しているだの、柊はあなたの子供だの、もしそんなことが書かれていたら、俺は気が狂ってしまう。だけど燃やすこともできない。愛する夏巳の遺言といってもいい手紙だ。俺の心は千々に乱れ引き裂かれた。
 そして結局俺は、その手紙を納骨の時に、夏巳の墓へ封じ込めた。そして今に至るという訳だ。

 この手紙を取り出して、君へ渡すよう美弥子に伝えてある。
 今まで君に渡さず封じ込めていたことは、謝らない。俺の心情はつまびらかに話したつもりだ。察して欲しい。
 それと念の為に言っておくが、ここに吐露した君への悪感情は全て過去のものだ。それを今穏やかな気持ちで思い返している。そう理解して欲しい。

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