禁断兄妹
第86章 時を越え運ばれし手紙、それは運命の書
謙。最後にもう一度聞こう。
君はあの日、夏巳を抱いたか?
もしそうなのだとしたら、柊が君の息子かどうか、DNA鑑定をして欲しい。
何故今更こんなことを言い出したかと言うと、柊は、萌を愛しているようなんだ。
萌というのは、俺と美弥子の子供だ。
柊は萌を一人の女性として愛しているようだ。そしてどうやら萌も、柊を愛している。俺は最近そのことに気がついたんだ。
しかし今の二人の関係は、腹違いの兄妹だ。互いに心惹かれながらも禁忌の関係に悩んでいるかも知れない。
でも、柊が君と夏巳の子供なら‥‥?
それが真実なら、柊と萌は他人ということになる。つまり禁忌の関係に悩むことはなくなるだろう。
その代わり柊は、自分こそが禁忌の子であるという真実を受け入れなくてはならないが。
たとえそうだったとしても、柊は全てを受け入れ乗り越えてゆく力がある男だ。そう俺は信じている。
謙。君に全てを打ち明けDNA鑑定を頼もうと決心したのは、柊と萌が真実を必要としていると感じたからだ。
俺にとっては、この子供は二人の子供だと信じようと、極限状態で夏巳と分け合った信念こそが真実だが、それは柊と萌にとっての真実ではない。
しかしただDNA鑑定をしてくれと言っても、君の心には響かないだろうから、君達との出会いから、激動の日々も、俺の情けなく卑小な心情も、包み隠さず話した。
お前がすればいいじゃないか、と君は言うかも知れないが、それでは俺が本当の父親か否かがわかるに過ぎない。
では誰が本当の父親なのか。己の血について柊は知りたいと願うはずだ。
若く未来のある柊と萌の為に、俺の最期の頼みを、聞いて欲しい。
頼むよ、謙。
一ノ瀬 巽