禁断兄妹
第88章 ギフト
「───まあ、そんな変人弘至君ですが、信用に値する人物ではありますからね。電話をもらった時に、あなたについての情報を彼から聞きましたが、今回のセッションに必要な情報共有ということで、彼も私も他言はしませんし、そこはご了承ください」
「はい。灰谷さんのことは信頼していますし、それによって記憶が取り戻しやすくなるなら、ありがたいです」
灰谷さんがこのクリニックを紹介してくれた時の記憶が私にはないから
それがいつのことだったかとか
どうして紹介したのかを
先生に話したのだと思う。
「そうですね。彼から聞いた情報も大切にするとして、まずはあなたが取り戻したいと思っている記憶について、あなた自身からお話を詳しくお聞きしましょう。勿論言える範囲で構いませんからね」
「はい、お願いします」
先生からの質問に答えていく形で
記憶が失われている期間や
その前後に何があったかを
明確にしていく。
私が記憶を失う怪我をしたのは
七年前
お父さんが亡くなった日
私が病院へお見舞いに行っている時に
お父さんが危篤状態になって
それをお兄ちゃんに伝えたかったけれど仕事中で電話が繋がらなかったから
私はお兄ちゃんがいるお店へ行って直接伝えて
その帰りに道路で転んで頭を打った。
私が転んだ時
心配して追いかけてきたお兄ちゃんと
和虎さんと灰谷さんがその場にいて
三人が私を助け病院へ運んでくれたと聞いている。
意識を失い
病院のベッドで目が覚めた私は
七月の初めにお父さんとお母さんが旅行へ行った日から
お父さんが亡くなった十二月の中旬までの記憶を
ぽっかりと穴があいたように失っていた。
お父さんが自分の目の前で危篤状態になったことが
きっとすごくショックで
だからお父さんが元気だった時まで遡って
記憶を失ってしまったのだと思う
男性恐怖症のような症状も
そのショックが原因のように思う
私はわかっていることや自分の心情を
できるだけ詳しく話した。