禁断兄妹
第88章 ギフト
「なるほど。空白の期間や状況はよくわかりました。私に説明したことであなたも再認識できましたね。
どうでしょう、こうして話すことに精神的にストレスを感じてはいませんか?」
「大丈夫です」
「それは良かった。でもこの先少しでも感じるようなら無理をせず言ってください。
では次に、記憶を取り戻したいと思った理由ですね。取り戻すことがストレスであるなら、無理をしてまで今取り戻すよりも、自然に任せるのが一番いいのでね。これも言える範囲で構いませんよ」
「はい。失った記憶の中には、父と過ごした最後の時間のこととか、とても大事なことが含まれていると、わかってはいたんです。でも思い出すのが怖くて、向き合うことから逃げてきたと言うか‥‥
でも、今の私には、大切に想う男性がいて‥‥失った記憶には、その男性との関係にまつわる記憶もあるように思うんです。それで‥‥」
大切に想う男性
お兄ちゃん
萌、と
私を優しく呼ぶ笑顔を思い出してしまって
言葉に詰まった。
「うん。もし泣きたくなったら、泣きましょうね。自分の感情を解放してあげてください」
「はい‥‥」
私はハンカチを目元に押し当てた。
落ち着け萌
泣かなくていい
お兄ちゃんの声が聞こえる気がして
深呼吸
「つまり、お父様との最後のひと時を思い出したいのも勿論ですが、記憶を失ってしまった六か月ほどの間に、その男性とあなたの間に、何かがあったはずだ。それを思い出したい、と。彼への愛ゆえということですかね」
「はい‥‥その男性を想うと、とても胸が騒ぐんです。いてもたってもいられないような気持ちです。どうしてこんな気持ちになるのか‥‥記憶を取り戻せば、そこに全ての答えがあるんじゃないかって‥‥今の私には、記憶を取り戻すことに昔ほどの恐怖はありません。だから‥‥」
「なるほど。愛は神秘のベールをかけることもありますが、払うこともあります。
うん、一緒に払いましょう」
「はい‥‥っ」
一緒に、と言ってくれた先生
心強い言葉に
胸がいっぱいになる。