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禁断兄妹

第88章 ギフト



「愛する方の死は残された方にとって本当に辛いものですが、いつまでも悲しみや苦しみの感情と共に思い出すのではなく、いとおしさや感謝と共に思い出せれば、人生は愛に溢れた豊かなものになると思いませんか」


「そうですね。そう思います」


「これは死という出来事に限りません。あなたに起きた過去の出来事も、どんな感情と共に思い出すのかによって、あなたの世界は変わります。どんな感情を持つのかは、今のあなたが決められるんですよ」


「決められるのなら‥‥愛のある感情を持ちたいです」


私がそう言うと先生は
あなたなら持てます、と微笑んだ。


「純粋な心を持つ十三歳のあなたは、耐えがたい恐怖や苦しみを味わうような出来事に直面してしまったのかも知れません。あなたの本能は精神に深刻なダメージを受けまいと、防御反応として、その出来事にまつわる記憶を全て心の奥にしまい込んだのでしょう。
 今のあなたはその出来事を思い出そうとしていますが、大人になった今のあなたなら、その出来事に新たな解釈を与えられるはずです。客観的に捉えられます。恐怖や苦しみだけに支配されることはないはずです‥‥」


いつしか私は目を閉じて
心地いい先生の声に耳を澄ます。


「過去にどれほどショックな出来事があったとしても、今のあなたを傷つけることはできません。今のあなたは、それを過去の出来事として冷静に捉えることができます。愛のあるポジティブな感情を与えることさえできます‥‥恐怖や罪悪感といったネガティブな感情に傾きそうになったら、思い出してくださいね」


「はい‥‥」


目を閉じたまま
頷いた。

先生の言葉は愛に満ちていて
心地よくて

包み込まれるような
安心感


「では、あちらのベッドのほうへ移動しましょうか‥‥コートやお荷物はここへ置いたままで結構ですよ」


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