禁断兄妹
第88章 ギフト
「体の力が抜けて、心地よくなっていきますね‥‥すごく心地いいですね‥‥」
はい
とても
ふわふわ
雲の中
雲の上
浮いているみたい
「今の心地良さのまま、目を開けることができますよ‥‥開けてみましょう‥‥」
「‥‥」
そうだわ
ここはクリニックで
先生が隣にいる
灰谷さんのお友達の先生
私と一緒にベールを払ってくれる
頼もしい先生
「何も心配ないですね‥‥もし目を開けたくなったら、いつでもこうして開けられます。声もちゃんと出ますよ‥‥」
「はい‥‥」
「怖くなったら目を開けましょうね‥‥いつでもここへ戻れます。今のあなたは私と一緒にここにいますよ。
これからあなたが見るのは過去の出来事です。遠い過去の出来事です‥‥」
遠い過去の、と
囁くように繰り返した先生の手が
彼方へ流れるように動く。
「過去の出来事は、今のあなたを傷つけることはできません‥‥私達は、この安全な場所から、過去の出来事を見ることができますよ‥‥
では再び目を閉じましょう‥‥」
いつでも目を開けられるし
声も出せる
自分のペースで
心の奥へ入っていきましょう
思い出したいことを
思い出していきましょう
無理はしなくていい
自由でいい
先生の優しい声に
安心しながら
ゆっくりと吸って
吐いて
「あなたの前に時計があるとイメージしてください‥‥どんな時計でもいいですよ。好きな時計をイメージしましょう‥‥形や色や、大きさも‥‥どんな時計がありますか‥‥?」
時計
自分の部屋のベッドサイドにある
薄いピンク色の目覚まし時計
ころんと丸くて
手のひらに乗るくらい
白地にピンクの数字
針もピンク色
聞かれるままに
先生に答える。
「あなたのその可愛い時計‥‥その時計の針が、逆回りに進んでいきますよ‥‥」
え‥‥?
「そう、逆に進んでいきます‥‥針が巻き戻っていきます‥‥あなたの目の前で‥‥徐々に‥‥徐々に‥‥巻き戻っていきます‥‥」