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禁断兄妹

第88章 ギフト



「あなたは電車に乗って柊さんがいる場所へ向かっている‥‥柊さんに会いに行こうとしている‥‥どうして柊さんに会いに行くのでしょう‥‥?」


どうして

どうしてだろう

あっ
そうだわ


「お父さんが‥‥!」


ドクンと心臓が飛び跳ねて
押し潰される
苦しい


「お父様に何がありましたか‥‥?」


「い、意識がなくなって‥‥お医者様が、本当に危険な状態だから家族を呼んだほうがいいって‥‥でも柊は電話に出なくて‥‥何度かけても出なくて‥‥」


「だから直接伝えに行こうとしたのですね‥‥あなたには決断力と行動力がありますね。素晴らしいことですよ‥‥」


素晴らしい‥‥?

違う

違うの


「私のせいだから‥‥お母さんも柊もいないのに、こんなことになって‥‥」


このままお父さんが死んじゃったら
どうしよう

どうしよう怖い
苦しい


「大丈夫、落ち着きましょうね。私の声に耳を傾けて‥‥呼吸を忘れないで‥‥はい鼻から吸って、吐いて‥‥」


先生の声だけが頼り

大きく吸って
吐いて


「私のせい‥‥?どうしてそう思うのですか‥‥?」


────非常に危険な状態です───何か兆候はありましたか───


「私は何も‥‥何も気づかなくて‥‥」


「うん」


「私がずっといたから‥‥お父さんを疲れさせてしまった‥‥」


「お見舞いの時間が長過ぎたと、後悔してるのですか‥‥?」


そう

早く帰れば良かった

私が早く帰れば
こんなことには


「萌さん、それは幼かったあなたの思い込みです‥‥」


額に感じた温かさ

ああこれは
先生の手のひら


「お父様の容体が急変したのは、あなたのせいではない‥‥」


凛とした声が
体の中
柔らかに響く


「決してあなたのせいではない。お父様の容体が急変したのは、あなたのせいではない。決して‥‥」


先生の声が
温かな手を通して
体の中に満ちていく

細かな光の粒

波のように
広がってゆく

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