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禁断兄妹

第88章 ギフト



「萌さん‥‥辛くはありませんか‥‥?」


苦し気に眉根を寄せたその表情が
とても辛そうで


「灰谷さんのほうが、辛そう‥‥」


思わず零れた言葉に
精悍な頬が
強張るように震えた。


「私はずっと記憶をなくしたままでしたが、灰谷さんはあれからずっと、辛かったですよね‥‥」


「私のことなど‥‥っ」


灰谷さんは喘ぐようにそう言って
首を振った。

あの恐ろしい出来事の残像を瞳に残したまま
私と普通に接してくれていた灰谷さん
とても辛かったはず


「灰谷さん。もう大丈夫ですから‥‥」


私も
あなたも

みんな
もう大丈夫

泣き出しそうな紅い瞳に
微笑みかけて


「あの出来事を思い返した時、全く辛くないと言ったら嘘になります‥‥でも、私は灰谷さんに助けてもらえたし、柊を守ることもできたんです。今の私には、後悔も、怒りも悲しみも、ありません」


柊と
自然に口にしていた。

もう隠す必要も
ないから


「萌さん‥‥」


灰谷さんは泣き笑いの表情で
私を見つめて


「あの時‥‥『手紙』だと気づくことができなくて、すみません‥‥」


私もクリニックで口にしたばかりの『手紙』
思いがけず現れて
はっとする。


「実は最近色々あって、あの手紙はあの男から取り戻すことができたんです。今は柊さんが持っています」


「柊が?!」


あの男からどうやって
しかも最近のことだなんて
どうして
どうやって

でもそれよりも
何よりも


「良かった‥‥っ」


本当に良かった

心からの安堵に力が抜けて
思わずしゃがみ込んだ。


「萌さんっ?!」


灰谷さんがとっさに手を伸ばし
私の肩に触れた。


「あっ、す、すみません!」


すぐに遠退いた手

一瞬だとしても
肩に残る男性に触れられた感覚
私は確かめるように
反すうした。

怖くない

私の心と身体は
以前のような恐怖感を感じてはいない


「‥‥灰谷さん、私、大丈夫です。男性に触れられても、もう大丈夫ですから、謝らないでください」


「いいえ。あなたに触れることができる男性は、一人だけです」

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