禁断兄妹
第88章 ギフト
今の王者のような風格がそれを物語っていますよね、と
灰谷さんは穏やかに微笑んで
「彼は己を律し、一歩引いた愛であなたを包み、見守ってきた。この七年間ずっと。
私がどんなに身体を鍛えようが、技を磨こうが、あの強さには敵わない。太刀打ちもできない。
‥‥直接には言いませんけどね。ちょっと悔しいですから」
「ふふ‥‥」
灰谷さんも
苦笑いして
二人で柔らかな笑顔を
交わして
「灰谷さん」
「はい」
「あの日私に言ってくれましたよね。『心と身体が成熟するのは何歳だと思いますか?』って」
灰谷さんの瞳が
ふっと見開かれた。
───聡明なあなたなら、少なくとも小学生や中学一年生ではないと、わかりますよね───
───成長していくうちに、今ならと思える時が来ます。自分自身にとってもパートナーにとっても。
答えを急がなくても、その時は自然にやって来ます───
十三歳だった私に
真剣に語りかけてくれた灰谷さん
「私、あの時思っていたんです。やっぱり二十歳なんじゃないかなって‥‥」
あの時の私は
恐れ知らずの心で
全身全霊で柊を愛していた
けれど
早すぎる肉体関係や
禁忌の愛に
心のどこかで罪悪感を感じていたのも事実
「私は今、二十歳です。『今ならと思える時』があるとしたら、それは今だと思います。
答えを急がなくてもその時は自然にやって来るっていう灰谷さんの言葉は、本当でした」
「萌さん‥‥」
記憶を取り戻そうって
二十歳の今になって本気で思ったこと
それはきっと偶然じゃない
私は無意識に
自分が大人になるまで
柊との時を止めていたのだと思う
「もしあのまま私と柊が密かに愛し合い続けていたら、私達は人目を避けるような生き方しかできなかったと思います。世界的なモデルになるという柊の夢も、フルート奏者になりたいという私の夢も、窮屈なものになっていたと思います。
それに、もし万が一私達の関係が世間に知られてしまえば、糾弾されるのは成人の柊だけです。そんなことになってしまったら、私はどれほど後悔するか‥‥
だからこの七年間は、私と柊にとって、必要な時間だったんだと、思います」