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禁断兄妹

第89章 禁断兄妹



十分もかからずに俺は墓地へ着いた。

ここは一年中管理されていて
道路も敷地内も綺麗に除雪が行われている
冬でも訪れることが可能だ。

休憩所や売店がある管理棟で手向ける花を買い
俺は母さんの眠る場所へ向かった。

眼下には白い街が広がり
よく晴れていれば遠く海まで見えるが
今日は降る雪で白く煙っている。

海外のような十字架の墓も多く
季節にはよく手入れされた花々が咲き乱れる美しい場所

母さんの眠る場所にふさわしいと
俺は昔からここを気に入っていたが
父さんが東京へ移さなかったことに複雑な思いもあった

KENTAROのことを慮ってのことだったのかも知れないと
父さんの葛藤が
今ならわかる。


「‥‥」


目に見えるほど近づいた母さんの墓の前に
誰かいる

俺は足を止めた。

まさか


「KENTARO‥‥」


白い世界の中
黒いコートの両ポケットに手を入れたまま
母さんの墓標である白い石板を
じっと見下ろしている横顔

遠目にもよくわかる
均整の取れたプロポーション
ラフでありながら優美な立ち姿

KENTAROだ

本物だ

俺は
全身に震えが走るのを感じた。


日本人の男性モデルとして初めて海外で成功を収めた男
俺は昔から彼のポージングやウォークを研究し尽くしてきた
同じ事務所にいたこともあるが
直接会う機会は今まで一度もなかった
勿論言葉を交わしたこともない

それが今
こんな形で実現する


俺の気配に気がついたのか
不意にKENTAROがこちらへ顔を向けた。

はっとしたように動きを止めたKENTARO
それまでの漂うような虚無感は瞬く間に消え
彼特有の
野性動物のような張り詰めたオーラに包まれる。

俺は深く一礼しながら

父さん
母さん

見ているか

見ていてくれ


顔を上げた俺は
足を進め
彼の前に立った。


「初めまして。一ノ瀬柊です」

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