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禁断兄妹

第89章 禁断兄妹


俺は用意していた言葉を口にしながら
KENTAROの視線が揺らぎ
俺から逸れ
沈んでゆくのを見ていた。


「‥‥巽が書いた手紙か‥‥」


俯いたKENTAROが
初めて口を開いた。

どこか落胆したような
声だった。


「そうです」


「‥‥」


一瞬見せた
苦し気な表情

大きな手で覆い
振り払うように緩く振った首
黒髪の上の淡雪が散った。

この手紙の中には
母さんが死ぬ間際にKENTARO宛てに書いた手紙を
父さんがKENTAROには渡さず墓へ封じ込めていたことが綴られていたが
今彼が見せた苦しげな表情と
何か関係があるのだろうか


「母が‥‥一ノ瀬夏巳があなたに宛てて書いた手紙は、七年前に美弥子から受け取っているんですよね?」


大きな手の指の間から覗く瞳が
俺を射貫く。

返事はない
雪の降る音が聞こえるような
沈黙


「とにかく、父が書いたこの手紙を読んでくれませんか。お願いします」


改めてそう言って手紙を差し出した俺に
KENTAROの鋭い瞳が
苛立たし気に細められた。


「読まなくても、巽が聞きたいことはわかってる。『一ノ瀬柊の本当の父親はKENTARO、お前じゃないのか?』
 ‥‥そうだろう?」


自ら核心に踏み込んだKENTARO
不意を突かれて


「確かに、そうですが───」


「答えは『俺にもわからない』だ。
 俺が夏巳と関係を持ったことは事実だ。その時期とお前の出生に相関性があるのも事実だ。しかしDNA鑑定をした訳じゃないから、お前が俺と夏巳の子供なのかは定かじゃない」


───俺が夏巳と関係を持ったことは事実だ───


禁忌の関係を
自ら無造作に暴いたKENTARO

あまりに呆気なく
あまりに冷淡で
俺は言葉を失った。


「DNA鑑定がしたいなら、俺の髪の毛でも持ち帰って好きに調べればいい」


KENTAROは額から後頭部へ向かって強く髪をかき上げると
手の中の物を取り出したハンカチに包み
俺へと差し出した。


「‥‥これでいいか、一ノ瀬柊」

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