禁断兄妹
第91章 禁兄 The Final~Love Never Dies~①
萌が心に深い傷を負ったことは
俺も痛いほどよくわかっている
性に対して嫌悪感や恐怖感を蘇らせないよう
心と身体の様子を見ながらスモールステップを積み重ねよというアドバイスは
正しく適切なものに思えた。
何よりも
七年も封じられていた萌の記憶を取り戻してくれた先生の言うことだ
真摯に受け止めるべきだろう。
「よし。じゃあ、ここから先はスモールステップで進もう。『愛を確かめ合いながら、一緒に一歩づつ階段を上る様に進む』‥‥とてもいいアドバイスだ」
微笑みかけると
萌は少しもどかしそうな表情で
ごめんね、と
呟いた。
「萌が謝ることなんて、一つもない。謝らなければならないのは、俺のほうだよ」
繋いだ手を包むように
俺はもう片方の手を重ねた。
「どうして萌が記憶を失うほどの怪我をしてしまったのか、俺は気が狂いそうなほど、身に沁みてわかっているつもりだよ」
俺の身から出た錆
自業自得
その全てを
この小さな身体で身代わりになった萌
「あの時萌が守ってくれなければ、今の俺はないんだ。夢も成功も、何もなかった。何一つなかったよ‥‥」
「柊‥‥」
また萌の瞳に
涙がせり上がって
今にも零れ落ちそうなそれを
唇を寄せて受け止めたい衝動を抑えて
指先でそっと拭った。
「正直、もどかしくないと言えば嘘になる‥‥萌も同じ気持ちかも知れないね。でもこれから二人の時間はたくさんあるんだ。ゆっくり進もう。萌の心と身体を、一緒に大切にしよう」
「うん‥‥」
切なく潤んだ瞳で見つめられると
胸がしめつけられるけれど
今言った言葉は本心だ。
萌を大切にしたい
俺にとってかけがえのない
この世でたった一つの心と身体だ
「スモールステップもね、初恋のようでそれはそれで素敵なはずだよ」
片目を瞑ると
萌は笑顔を見せて頷いた。
「ところで、萌はどうやってここまで来れたんだ?それ以外にも、聞きたいことがいっぱいだけどね」
「私も、話したいことがいっぱい‥‥えっと、まず、ここに来れたのは、灰谷さんと和虎さんのお陰なの‥‥」