禁断兄妹
第91章 禁兄 The Final~Love Never Dies~①
私の気持ちと呼吸が落ち着くまで
柊は黙って背中を撫でてくれて
やっと顔を上げる気になった私が腕の力を緩めると
それに気づいた柊が
微笑みながら私の顔を覗き込む。
「大丈夫か‥‥?」
頷きながら
私のほうが柊を気遣いたいのに
でも
どんな慰めの言葉も励ましの言葉も
軽々しく思えて
もし私が柊だったら
どんな気持ちだろう
お父さんだと信じていた人が
本当は他人だったと知ったら
本当のお父さんから
心無い言葉を投げつけられたとしたら
私は再び柊の胸に顔を埋め
抱きしめた。
愛してると言う他に
今の私に
何が言えるだろう
「あのね‥‥お父さんが、危篤状態になる直前のことなんだけど‥‥」
背中を撫でてくれる柊の手が
止まった。
「うん‥‥」
「‥‥お父さんの病室の机の上にね、あの日柊が出演していたクラブイベントの切り抜きがあったの。看護師さんで柊のファンの人がいて、その人から行ってみたらいかがですかって、もらったんだって‥‥」
───行ってみたらいかがですかって言われたけど、クラブイベントなんて、この身体じゃちょっと行けないなあ───
───行ってみたらいいのに───
───無理に行って倒れたりして、あいつに迷惑かけるのは絶対に嫌だよ。もう少し体調が良くなったら、ショーでも何でも見に行こうと思ってる───
記憶の中のお父さんの言葉
微笑み混じりの
温かな声音
できるだけ正確に
再現する。
これは柊へのギフト
時を越えて
お父さんから
柊へ
「私ね、お父さんに、じゃあその為にも元気にならなきゃねって言ったの。お兄ちゃんの夢は世界中のランウェイに立つことなんだよ、お兄ちゃんだってきっとお父さんに見せたいって思ってるよって。そしたらね‥‥
『世界中のランウェイか‥‥あいつ、腹立つくらいカッコいいな』‥‥って、すごく楽しそうに、嬉しそうに、笑ったの‥‥」
頬をつけた柊の胸は
早鐘のように鳴っていて
背中に置かれている大きな手のひらは
熱を増して
「お父さんはね、柊のこと、すごくすごく応援してたし、愛してた‥‥」
柊は何も言わなかった。
熱い身体を
頷く仕草に何度も揺らして
昂る心を鎮めるように
大きな息を何度も繰り返した。
柊
泣いてもいいの
泣いてもいいのよ