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禁断兄妹

第91章 禁兄 The Final~Love Never Dies~①


「タカシに対しては複雑な思いがあったな。
 七年前に俺が海外へ拠点を移すことになって、その旅立ちの日のこと‥‥覚えてる?」


柊はそう言って
髪をかけている私の耳に
指先でそっと触れた。


「‥‥っ」


ほんの指先だけ
それでも火が灯ったように熱くなる。


「うん‥‥今思うと、本当に、ごめんなさい」


「俺も謝らなくてはいけないね。萌に罪はないのに、あの時は大人げなく感情を露わにしてしまった」


記憶を失っていたとはいえ
柊が夢に向かって旅立つという大事な日に私はタカシ先輩を家に呼び
プレゼントされたイヤリングをつけてしまった。

柊が苛立ちを露わにしたのも
当然だと思う。


「俺は萌と永遠の愛を誓ってから、どうしたら萌と二人で幸せに暮らしていけるかを考えていてね‥‥それで将来的には萌と海外で暮らそうと考えた。その為にも世界的に成功して、富と自由を手に入れたいと思っていたんだ」


「そうだったの?」


「ああ。世界中のランウェイを歩きたいという俺の夢は、誰にも邪魔されない萌との生活という夢につながっていたんだ。
 父さんが亡くなってまだ数か月の頃だったし、萌の記憶も戻らないままだったから、今海外進出すべきなのか本当に悩んだけれど、絶好のチャンスを逃がしたくはなかった。萌とまた愛し合える日がくることを信じて、俺は旅立つことに決めたんだよ」


穏やかな声で紡がれる
あの頃の柊の思い
葛藤


「そんな思いで迎えた旅立ちの当日に、タカシだ。しかも萌の耳には贈られたイヤリングが光っている。ジェラシーを通り越して怒りが湧いたよ。
 俺は大人げなく二人に当たり散らして家を出たけれど、萌はバルコニーに出てきてくれたね」


「あんなに怒った顔をした柊は初めてだったから、驚いたし怖かったけど、心がすごく揺さぶられて、気がついたらバルコニーに出ていたの。そしたら、私に向かって両手を広げてくれて‥‥それを見た瞬間に、柊の愛情が言葉を越えて伝わってきたのを覚えてる‥‥」


煌めく海辺で
笑顔の柊が両手をいっぱいに広げ
私の名を呼び
そして私も同じように両手を広げ
二人駆け寄り抱き合った

永遠の愛を誓った日の
幸福な記憶

それを取り戻している今は
バルコニーに立つ私に柊が両手を広げた意味も
痛いほどわかる

あれは永遠の愛を表す
二人だけのボディランゲージ

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