禁断兄妹
第91章 禁兄 The Final~Love Never Dies~①
「ラストチャンスのような気持ちで萌への愛を表現したけれど、その時は空振りに終わったね。俺は旅立ちと言うより去り行く異端者のような気分で、和虎の車に乗ったよ。
タカシは正々堂々と萌の隣にいられるし、自由に愛情を表現することもできるけど、俺はただの兄でしかなくて、萌が記憶を失っている状態じゃ手も足も出ない。悔しくて、みじめで、孤独だったな」
柊は苦笑いの混じる声で明るく言うけれど
その時はとても笑えない心境だったはず
「柊が両手を広げた姿を見た瞬間に、時が止まったみたいに身体が動かなくなって‥‥本当にごめんね‥‥」
柊の胸に頬をあて
両手を回した。
「確かにその時は動いてくれなかったけど、空港で美弥子の妊娠がわかって、その後萌が一人で俺の元に戻ってきてくれたじゃないか。あれは本当に嬉しかった」
優しい声
私の背中を撫でるように
大きな手がゆっくりと上下する。
「素直な気持ちを一生懸命話してくれて、最後には俺に向かって両手を広げてくれたね。あれで全てが晴れた。萌とわかり合えて、心で抱きあえて、俺は自分を取り戻すことができたんだ。
萌の記憶はまだ戻らなくても、深いところで愛は伝わっている。信じようって、強く思えたよ」
絶望的な気持ちの中
それでも両手を広げて見せてくれた柊
柊はいつも私より先に愛をくれる
手放しで
惜しみなく
「柊って、強くて、大きい‥‥」
そう言ったら柊は
そんなに強くも大きくもないさ、と笑って
「タカシが萌の側にいることで、正直、心がかき乱されたり焦れたりすることもあったからね。でも同時に彼には感謝もしていたな。矛盾するようだけれど、彼が萌の側にいてくれることは、悔しいけどありがたかった。
萌が記憶を失ってすぐの頃はボディガード的な役割を担ってくれたし、何より彼は俺にはない音楽の才能や知識を持っていて、萌の音大進学にとても力になってくれたからね」
「うん。先輩には本当にお世話になってるんだ」
そして私は
思い切って
「私ね、タカシ先輩に、柊とのことをきちんと話すつもり。それでも先輩が今までと同じように私と接してくれるかはわからないけれど、私は先輩のことを本当に尊敬してるし、これからも良い関係を築いていけたらって思ってるの」