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禁断兄妹

第11章 ときめき


萌には昔から
買い食いのようなことを禁止してきた。

萌の教育係を自認する俺は
歩きながら食べるのは行儀が悪いと言い聞かせていたし
身体が弱かった萌には
できるだけ美弥子の手作りのものや
添加物の少ないものを食べさせたかったから。

俺自身は全然買い食いするけど。


「お嬢様は何から食べるの?」


「‥‥クレープ!」


「はは、また可愛い食い物選ぶなあ」


そばにあったクレープの店で
萌が選んだイチゴのクレープを注文した。


「はい」


「わー、ありがとうっ」


目をキラキラさせている萌

嬉しいんだな


「よし、じゃあ行こうか」


「‥‥歩きながら食べていいの?」


「ああ。今日は特別。お祭りだからな」


俺達は歩き出す。

萌は両手でクレープを持ったまま
なかなか口をつけない。


「‥‥どした?」


俺は萌の顔を覗き込んだ。


「なんかね、食べるのもったいない‥‥」


萌が俺を見て恥ずかしそうに笑った。


「え?」


「こういうクレープね、ずっと、一度、食べてみたかったの。お店の中で、お皿に乗ってるのじゃなくて、こういうの‥‥」


「‥‥」


俺は言葉に詰まった。


「あ、でもね、友達が食べてるのを内緒で一口とか、もらったことはあるの。ふふっ」


萌は慌てて付け加えると無邪気に笑った。

フォローになってない

内緒で一口

俺も
父さんも美弥子も
誰も見ていないのに
萌は言いつけを守ってたんだな

真面目な萌

いじらしい


「そっか」


俺はつい
触らないでと言われていたのに
萌の頭を撫でた。


「あ、」


萌は声をあげる。


「大丈夫‥‥崩さないよ」

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