禁断兄妹
第32章 心の準備
学校のこと
友達のこと
聞きたがる俺に応えて
萌は以前と変わらず楽しそうに教えてくれる。
その可愛い声で
俺達の空白の時が埋まっていく。
「ねえ‥‥お兄ちゃん」
「うん?」
「私も聞いていい?」
「ああ。何かな」
「お兄ちゃんの‥‥昔の話、聞きたいな‥‥私と会う前のこと」
今まで俺達は普通の四人家族という設定だったから
当たり前だけれど
そういったことを話したことはなかった。
「どこから話せばいいのかな‥‥難しいな」
「北海道に住んでたって、お父さんに聞いたよ。私行ったことないから‥‥どんなところ?」
「札幌っていう街に住んでた‥‥父さんと、母さんと、三人で」
口にしたのはいつ以来だろう
札幌で
三人で
真っ白な雪景色が
目の前に広がる。
心の中にはいつもある風景
俺のただ一つの家
一人だけの母さん
母さん
「お兄ちゃん‥‥?」
「ごめん‥‥なんだか上手く話せそうにない」
俺の言葉に
萌がはっと悲しそうな顔をする。
「ごめんなさい‥‥変なこと聞いて」
俺の生みの母親がもう亡くなっているという話は
聞いてるんだろう。
「違う‥‥なんだろう、ごめんな‥‥」
俺は萌の頭を撫でた。
「悲しいとか嫌だとか、そういうんじゃないんだ‥‥上手く話せないだけ‥‥」
「‥‥」
「いつか一緒に行こう‥‥?」
「‥‥本当?」
萌が声を弾ませる。
「うん。冬に行こう。寒いけどね、やっぱり冬がいい」
「うん!雪で作ったお城とか、見たい!」
「雪まつりか‥‥そうだね、その頃に行こうか」
「うんっ」
そして
二人で母さんの墓参りに行きたい。
今まで年に一度は父さんと二人で行っていた。
萌には男同士の旅だとか適当なことを言ってたけれど
今度は
萌と一緒に行きたい。
「俺の恋人を母さんに会わせたいしね‥‥」
墓は形でしかない
でもやっぱり
萌と二人で手を合わせたい。
「うん‥‥」
萌は頷くと
俺の背中とソファの間に両手を通して
俺を抱き締めた。