禁断兄妹
第49章 美弥子
「ごめん」
巽さんがぽつりと呟いた。
「どうして謝るんですか‥‥?」
「聞けば、お前も苦しむとわかってたから、話さずにいたのに‥‥萌にも、話さないほうが良かったのかも知れない」
「‥‥巽さん‥‥」
私は顔だけじゃなく
身体ごとまっすぐ巽さんに向けた。
「うん‥‥?」
「あなたが愛しているのは夏巳さんだけだと、私はわかっています‥‥恵まれない家庭環境にあった私に対する同情を、愛情だと思い込んでいることも、わかっています‥‥」
言いながら声が震えるのが
自分でもわかった。
「美弥子‥‥?」
巽さんもゆっくりとした動作で私に向かい合う。
「私なんて、バカだし、すっとぼけてるみたいだし、全く頼りにならないかも知れません‥‥頼りどころか、お荷物的な‥‥?」
黙ったまま覗き込むようにじっと見つめられて
頭にどんどん血が昇る。
「でも、こんな私でもっ、あなたの力になりたいんです‥‥楽しいことだけじゃなくて、悩みごとや苦しみも分かち合いたいって、思ってるんです‥‥」
足が震えて
心臓の音がうるさくて
自分でも何を言っているのかわからなくなるけれど
巽さん
あなたに伝えたいことがある。
「言いたくないことは、言わなくてもいいんです‥‥でもっ、私にとって、聞きたくないことは、ひとつもありません‥‥っ」
巽さんの瞳が揺れて
月明かりに瞬く。
「巽さん‥‥辛い思い出なのに、話してくれて、ありがとう‥‥」
「美弥子―――」
大きな両手が伸びて
引き寄せられるように強く抱きしめられた。