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禁断兄妹

第52章 由奈


「なっ‥‥!」


「ちょっと、一ノ瀬君!」


「じゃ、お疲れ」


気色ばむ女達に優雅に微笑む姿が
見えなくても
鮮やかに見えて

胸の中
光が弾ける。

―――あいつはいい仕事してるよ―――

「おっと‥‥」


頭の上から降ってきた声に顔を上げた。

私に真っ直ぐな視線を向ける
すうっと切れあがった美しい瞳

微笑を浮かべた余裕と自信に溢れた表情は
さっき心の目で見たのと同じ


「‥‥入らないの?」


開け放たれている内側に開くドア
私に道を譲って待ってくれていると気づく。


「うわっ、由奈」


「え、やだ、いたの?」


ヒソヒソ声が聞こえたけれど
もういい

もういいの

首を振った私の目の前をすり抜け
事務所を出ていく広い背中

残り香がきらめいて
彼へと続く光る道が見えるよう

その道を
私は駆け出した。

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