禁断兄妹
第52章 由奈
ゆらゆら揺れる視界の中に
何かがすっと入ってきた。
「ごめん‥‥言い過ぎた」
一ノ瀬君の真面目な声が聞こえた。
差し出されていたのは大きな右手だった。
「‥‥なによ‥‥」
「握手」
「‥‥」
「悪かった。なんだか話しやすくて、言い過ぎた」
「あんたなんて、もういい‥‥知らない‥‥」
「そう言うなよ‥‥友達になろう?仲直りしようぜ」
友達になろう
仲直りしよう
懐かしい言葉に右手が動いた。
引かれるようにぎゅっと強く握られて
その弾みで堪えていた涙が溢れた。
一ノ瀬君のもう片方の手が伸びて
嗚咽を繰り返す私の手の甲を
ぽん、ぽんと優しく叩く。
「‥‥面倒臭い女だなって、思ってるでしょ‥‥」
しゃくりあげながら呟いた。
「うん」
「正直ね」
「友達だからね。本音を言うさ」
ため息混じり
でも優しい声。
「嫌な思いをしてきたのかも知れないけど‥‥今の君が素なら、相手が男でも女でも初めからそれを出せよ。俺はそう思う」
「うん‥‥」
私が泣き止むまで
べとべとに汗ばんだ手を一ノ瀬君はずっと握り続けてくれた。
一ノ瀬君
正直で優しい私の友達
私もあなたのように
生きてみたい