
禁断兄妹
第52章 由奈
「‥‥嬢(じょう)!!」
「えっ、あ、何?」
私の目の前に突き出されていた空の茶碗
「おかわり‥‥百回くらい言いました」
ラグの上の小さなテーブル越し
私を不機嫌そうに見据えている修斗(しゅうと)と目が合った。
「ちょっと聞こえなかっただけでしょ‥‥ていうか自分で盛りなさいよ」
私はキッチンの炊飯器からご飯をよそって戻ると
立ったまま修斗の鼻先に突きつけた。
「これ食べたらさっさと帰って」
「‥‥仏さんの飯かよ」
「大盛りにしてあげたのよ。文句言わないで」
修斗は呆れたように私をひと睨みして茶碗を受け取ると
山のように盛ったご飯を黙々と食べ始める。
「クソガキ‥‥」
焼き鮭をつつきながら修斗が呟く。
「聞こえてるわよクソオヤジ」
「まだ25です」
「私だってもうすぐハタチよ。ガキじゃないわ」
一人暮らしをしているマンション
淡いピンクを基調としたインテリアの中で場違いなスーツ姿の修斗は
うちの組員。
私の実家がヤクザだというのは悪夢のような現実で
一人娘の私は嬢と呼ばれ
比較的年が近かった修斗は会長である祖父に私の警護と遊び相手を命じられ
もう五年以上側にいる。
尊大で無神経な男
いつの間にか偉くなって忙しい身らしいけれど知りたくもない。
ヤクザは
嫌い。
