禁断兄妹
第52章 由奈
ジェルでベッタリとオールバックに固められた修斗の髪
乱れているのを見たことがない。
一ノ瀬君の前髪は
傾げる首に合わせてさらさらと揺れていた。
一ノ瀬柊君
教えてくれたメールアドレスに早くメールしたい。
ああなんて書こう‥‥
「ガキじゃない、か。人のカネで生きてて、よくそんな事が言えますね」
冷ややかな声に顔を上げると
くっきりとした三白眼が私を見据えていた。
箸を置いている修斗が
テーブルの上の封筒を顎で指し示す。
「そのカネもこのマンションも、会長の懐から出てます。こんなスネかじりの、どこがガキじゃないんですかね」
熱くなっていく身体
私はしまってあった封筒の束を取ってくると
修斗の胸に投げつけた。
「確かにこのマンションは使わせてもらってるけど、お金には手をつけてないわ。
先月も、その前も、あんたが勝手に置いていっただけでしょう?‥‥おじいちゃんに返して」
「どうして使わないんです?」
修斗は動じる風もなく
散らばった封筒を拾いテーブルの上に重ねていく。
「働いてるからよ」
「モデルの仕事だけでいくらになります?二、三万?」
真顔で見上げられて頬が熱くなる。
「い、今はまだ少ないけど、他にもちゃんとバイトしてるし‥‥っ」
「食っていく為にバイトに明け暮れて、シフトで身動きが取れない‥‥本末転倒もいいとこだ」
「‥‥っ」
「ご馳走様でした」
修斗は胡座の両膝に手をおいて頭を下げると
立ち上がった。
緩めていたネクタイを直しジャケットを羽織ると
立ち尽くす私を冷たく見下ろす。
「バイトに明け暮れ、今度は男ですか?嬢はここに、何をしに来たんですか?」