禁断兄妹
第52章 由奈
「嬢、ちょっと変わりましたね」
帰り際
靴を履きながら修斗が呟いた。
「?‥‥そうかな」
背中越しの無表情な声は
いい意味なのかなんなのか
よくわからなくて曖昧に言葉を返した。
「あの男とは‥‥どうなりました?」
「え?」
「一ノ瀬柊」
振り返った修斗は
真顔で私をじっと見下ろす。
「‥‥勝手に名前覚えないでよ‥‥て言うかあんたに関係ないでしょ」
「なくはない」
「彼とはいいお友達よ。おじいちゃんに報告するようなことは何もないわ。
‥‥はいお疲れ様、又ねっ」
無言の修斗の身体を玄関から無理矢理押し出して
鍵を閉めたドアに寄りかかった背中
心臓が音をたてていた。
一ノ瀬君の存在は
あの日からずっと私に勇気と力をくれていた。
たわいのないメールをしたり
事務所や現場で会えばお喋りをするだけの
本当にただの友達だけれど
私には特別な人。
その名を耳にしただけで頬が熱くなって
胸が震える。
修斗にも
誰にも
この想いを土足で荒らされたくはなかった。