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禁断兄妹

第53章 由奈~終わりの始まり~


一ノ瀬君と連絡が取れないままひと月が過ぎ
七月が終わろうとしていた。


「由奈、どう見てもそのシャドー変よ」


「変って何よー。これ最新のだよ」


蒸し暑いある日の夜
私は小さなゲイバーで
カウンターの中の和虎君とお喋りしながらカクテルを飲んでいた。


「昆虫つけてんのかと思った」


「やめて!そんなこと言われたらもう使えなくなっちゃう!」


このお店は常連さんと同伴の時だけ女性も入っていいというルールらしくて
私は和虎君がお店にいる時に時々お邪魔していた。


「本当は男も女もないんだけど、こういうお店だからお客さんの為にも、ね」


ママは私が和虎君に連れられて初めて店に来た時から優しかった。


「柊兄から宜しく頼むって言われてるから、仲良くしてやってんのよ」


和虎君も口ではそう言うけれど
お店にいる時に暇なら来たらと声をかけてくれたり
友達を紹介してくれたり
いつも優しかった。


「ねえ、一ノ瀬君は元気にしてる?」


和虎君には一ノ瀬君への想いを打ち明けていた。


「健康よ。仕事もしてるでしょ。雑誌見なさいよ」


「見てるけど‥‥全然連絡来ないから心配で」


仲間内で一ノ瀬君と連絡を取り合っているのは和虎君だけ
でも彼に何があったのかは教えてくれなかった。


「誰とも連絡はとってないみたい。今はみんなでワイワイしたい時じゃないのよ‥‥そっとしときなさい」


「うん‥‥」


「‥‥」


「帰ろうかな。お勘定して」


「‥‥了解」


お釣りを差し出す手を止めて和虎君はため息をついた。


「由奈。黙ってたけど、もう少し待ってたら柊兄来るよ」


「えっ」

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