禁断兄妹
第53章 由奈~終わりの始まり~
「一ノ瀬君っ」
人波を半ば強引に進んでいく背中
名前を呼んでもあの日のように振り返ってはくれない。
「おい兄ちゃん、気ぃつけろや」
荒っぽい声が聞こえた。
「おい待てやこら」
足を止めた一ノ瀬君が二人の男に挟まれているのが見えて
「すみませーん!!」
私は大声をあげながら人波をかき分けて
一ノ瀬君の腕に飛びついた。
「うわっ、何だよ」
男達が驚いて一歩退く。
「彼、酔ってるんです!すみません許して下さいっ」
頭を下げた私に周りの視線が集まる。
「何だよ姉ちゃんこの男の女か」
大きく頷くと男達はフンと鼻で笑った。
「‥‥あんまり粋がらせんように、気ぃつけろや」
「本当すみませーんっ‥‥さ、行こうっ」
見上げた一ノ瀬君は無言のまま
立ち去っていく男達を冷然と見ている。
掴んでいる腕が固くて
力が込められているのがわかる。
今にも殴りかかりそうなその腕を無理矢理引っ張って
私は駅へ向かって歩きだした。
「‥‥離せよ」
「もうケンカ、しない?」
「してない」
「しようとしてたでしょう‥‥ダメだよ。怪我でもしたらどうするの」
会話らしくなってきたことが嬉しくて
私は笑いかけた。
「さっきはごめんね。びっくりしちゃって何も言えなくて。私が帰って、一ノ瀬君は店にいれば良かったね」
一ノ瀬君がゆっくりと首を傾け私を見下ろす。
「‥‥どうでもいいから離せよ」
苛立ちを露わにした刺すような視線と低い声に
また胸がえぐられる。
私は腕をほどき
少し離れて横に並んで歩いた。
「心配だから家まで送るね」
「‥‥帰れ」
電車に乗って
降りて
駅から大分歩いて辿り着いたのは
小さな三階建てのアパートだった。