禁断兄妹
第53章 由奈~終わりの始まり~
「冗談だ‥‥帰れよ」
冷笑は掻き消えて
向けられた背中
一ノ瀬君は再び階段を上り始める。
「いいって言ってるのに、どうして怒るの?!」
追いかけながら
悔しくて恥ずかしくて
涙が込み上げてくる。
「‥‥友達と寝る趣味はない。そういうオトモダチなら、別だけどな」
「友達だなんて思ってないくせに!」
さっきから冷酷で意地悪で
私をなぶって
反応を楽しんで
「私は本気だよっ、一ノ瀬君のことが本当に心配で―――キャァッ!」
音をたてて
大きな手のひらが壁に叩きつけられた。
「いい加減にしろよ‥‥」
思わず目を閉じた数センチ前
唸り声が聞こえた。
「俺のこと、仲間内に嗅ぎまわってるらしいな‥‥力になりたい?心配?‥‥迷惑なんだよ」
冷たい壁と獰猛な瞳に挟まれて
吹きかかる息の熱さを感じる。
「‥‥帰れ」
まるで傷を負った野生の狼
牙を剥き
近寄るなと威嚇する。
───今は一歩引いて見守ってあげるのよ───
和虎君の言葉を思い出すけれど
こんな一ノ瀬君を黙って見てることなんて
私にはできない
「帰らないっ!!」
私は身体ごとぶつける様に
狼の首に強く抱きついた。
「そういうオトモダチでも、何でも、いい‥‥っ」
吠えられたって
噛みつかれたって
私は退かない
その懐に身体ごと飛び込んで
傷の手当てをするの
「‥‥友達、やめんの」
耳元で聞こえた低い声に
あの日差し出された右手が
流れ星のように胸をよぎった。
頷いた瞬間
それは残像を残して消えた。
「じゃあ‥‥来いよ」
そして軋んだ音をたてて
真っ暗な部屋の扉が
私の目の前で開かれた。