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禁断兄妹

第53章 由奈~終わりの始まり~


――――――

「嬢‥‥昨日も遅かったんですか?」


「うん」


「仕事は順調ですか」


「うん」


「‥‥おかわり」


「うん」


修斗から受け取った茶碗を手にキッチンへ
ご飯をよそいながら

柊君はちゃんとご飯食べてるのかな

また心が柊君に
数日前のあの夜に
引き寄せられていく。

―――壁が薄い。声は抑えろ―――

飢えた狼の前に身体を投げ出した真夜中の森
息荒く喰らいつかれ
激しい雨風に全身を打たれるように貪られ
もみくちゃになりながら
いくつもの星を肩越しに見た。


「一ノ瀬君て、こういうこと慣れてるんだね‥‥」


仄白くなり始めた部屋のベッドの上
シーツに包まったままぼんやりそう言ったら


「お前が不慣れ過ぎるんだ」


ヘッドボードに背中を預け
煙草の煙を天井へ吐き出しながら


「まあ、そういうのも燃えるけど‥‥?」


性欲が満たされたからか
酔いが覚めたからか
あの狂暴なまでの刺々しさは影を潜めていた。

何を話した訳じゃない
荒れている理由もわからないまま
だけど遠くを見つめたままの横顔は確かに穏やかで
そんなことが泣きたくなるほど嬉しかった。


「呼び方、変えてもいい‥‥?」


「どんな風に」


「柊‥‥‥‥君」


本当は呼び捨てにしたかったけど
ふっと冷たい顔を向けられて
慌てて君をつけた。


「柊君‥‥今度は私の部屋に来なよ」


壁、厚いから
そう付け加えたら
柊君は小さく肩を揺らして笑った。

いつ来てくれるかな‥‥

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