禁断兄妹
第57章 会いたかった
「フルート奏者!
まー、あなた聞いた?萌が音大に行ってフルート奏者ですって!」
「何で夫婦設定なんだよっ。萌、それは俺初耳。そうなんだ?」
照れているような緊張してるような表情で萌が頷く。
「うん。最近部活でフルート吹くのが楽しくて‥‥なんとなくそう思うようになったの」
「すっごくいいと思う!!世界的に活躍する、美しすぎるフルート奏者!ね、あなた!」
「本当にまだ全然、ただの夢ですけど‥‥そうなったらいいなって」
「俺もすごくいいと思うよ。萌にぴったりだ」
俺は中学の部活で始めた萌のフルートをまだ聞いたことがない。
なのに
その美しい音色が聞こえ
ドレスを纏った女神のような萌の姿が鮮明に胸に描かれて
胸が熱くなった。
「萌は小さい頃から音楽をやって来た訳じゃないから、いっぱい頑張らなきゃいけないな」
「うん」
さっきよりもはっきりと頷いた萌
その頭をいとおしく撫でながら
「萌‥‥
叶えたい望みや夢があるなら、しっかりと胸に描いて、努力を根気よく積み重ねていきなさい。それがいつの間にか階段になって、必ず手が届くようになるから」
「‥‥はい」
「楽したり、ずるしたりはしないこと。努力の積み重ねだけが、階段を作るんだよ。
‥‥これは俺の亡くなった母親の言葉でね。そんなようなことをよく言ってた」
瞳を瞬かせた萌がきゅっと唇を結ぶ。
「俺はだらしがないから、母さんの言う通りに生きてきた訳じゃないけどね。でも大事にしてきた言葉だよ」
時折心の奥から引っ張り出しては埃を払っていた言葉
「頑張りなさい。応援するから」
「はいっ」
「よし、いい返事」
「‥‥ぐすっ‥‥」
鼻をすする音が聞こえて
俺と萌が和虎を見ると
「‥‥ごめん、なんかジーンとしちゃってっ‥‥」
口元を押さえ何故か感極まっている。
「泣いたり笑ったり忙しい奴だな。なんでお前がジーンとするんだ」
「柊兄は、本当に愛情を持って萌を育ててるんだなあって‥‥本当に愛してるんだなあって‥‥なんだかすごく伝わってきたの」
その言葉に
俺と萌は又顔を見合わせ微笑みあった。
「愛してるさ。こんなに愛おしい生き物を、俺は他に知らない」