禁断兄妹
第57章 会いたかった
店員は来ないけどそこに窓もあるんだから気をつけてよ、と念を押して和虎が出ていくと
部屋の中は急に静かになって
板張りの床を鳴らして遠ざかる靴音を聞きながら
俺と萌は互いの指を離した。
「そろそろお開きだな‥‥お腹いっぱいになったか?」
「うん!とっても美味しかった」
「それは良かった」
満ち足りた笑顔の萌と見つめ合う。
「柊は?ワインばかり飲んで、あんまり食べてない気がする」
「ちゃんと食べたよ。
‥‥でも、俺もデザートが食べたいかな」
「えっ、ごめんなさい。ジェラート全部食べちゃった。食べたかった?」
「大丈夫。まだあるから」
俺は立ち上がると
部屋の片隅に置いてある飾り棚へと歩いて
萌を振り返り手招いた。
「?」
不思議そうな顔で席を立ち近づいてくる萌
手の届く距離に入った瞬間
その腰を抱き寄せた。
「きゃっ‥‥!」
「俺のデザートは、こっち‥‥」
顎に指をかけ上向かせると
柔らかな唇を親指でなぞり
軽く触れるように口づけた。
「‥‥っ」
囲った腕の中
驚いた萌の身体が小さく跳ねて
俺の心も跳ねあがる。
もう一度求めた
今度はもう少し長く。
ほんの少しだけ差し入れた舌先が
ジェラートで冷えた萌の舌先と触れる。
甘い
「‥‥もうダメ、誰かに見られたら‥‥」
唇を離すと
耳まで真っ赤にした萌が俺の胸を両手で押し返そうとする。
そういうの
逆に煽られるんだけど
「この位置なら絶対に外からは見えないよ。さっきの和虎の言葉に隠された暗号はね、『店員は部屋に入れないから、窓から死角の位置でどーぞ』って、こと」
「本当‥‥?」
「あいつとは付き合い長いからね。
‥‥安心したら、続きをさせてくれないか。五分しかないんだ。一秒でも惜しい」
囁きかけると萌は恥ずかしそうに頷いて
俺を見上げる瞳が
目の前でゆっくりと閉じていった。
長い睫毛に縁取られた薄い瞼
眠りにつく花のようだと思った。